かたつむりのフランス語カフェ

吾輩はふら語教師である。名前はかたつむりである。

フランス語 前未来形の隠された用法(過去の推量と総括)

ボンジュール!ふら語教師のかたつむりです。

今日は、中級・上級者向けにフランス語文法のお話。

いきなりですが、動詞の活用に前未来形 (futur antérieur) ってありますよね。

普通、初めてこの時制を習うときには、時間軸みたいなものを使って、単純未来前未来の違いを中心に勉強します。

ただ、そこで勉強しているのは前未来形という名前が示す通り、未来の出来事を表現する用法です(この記事ではこの用法には触れません)。

それはそれで大切なことなのですが、実は前未来形には「未来」ではなく「過去」の出来事を表現する隠された用法もあるんです。

具体的には、過去の出来事の推量用法過去の出来事のまとめ用法があります。

「前未来という名前なのに過去のことなの?」と思ったそこのあなた、そうなんです。タチが悪いですよね。

しかもこの用法は珍しいものではなく、ちょくちょく見かける用法です。そんなときに「未来」の用法しか知らないと、「???」となってしまいます。

ということで、この記事では、過去の出来事を表す前未来形が、具体的にどのように使われるのかを解説したいと思います

目次

前未来形の隠された用法

過去の出来事に使える前未来の用法は大別すると二つあります。一つは過去の出来事の推量用法、もう一つは過去の出来事のまとめ用法です。

まずは推量用法から見ていきましょう。

1 過去の出来事の推量

前未来形は過去の出来事について推量する時に使うことができます。

(1) J’aurai oublié mes clés au restaurant. Je ne les trouve plus.
レストランに鍵を忘れてきたようだ。見つからない。

(2) Ils sont en retard; ils auront sans doute été retardés par un embouteillage.
彼らは遅れている。大方、渋滞にでもあったんだろう。

どちらの例文でも前未来は、何らかの具体的状況(「鍵がないこと」、「彼らが遅れていること」)に対して仮説的な説明を与えていますね。

実際に出来事が起こったかどうかが確認されるのは未来です。前未来の未来時制はそのように解釈できます。

しかし、繰り返しますが、出来事そのものが起こったと考えられているのは過去です。

2 過去の出来事のまとめ

さらに、前未来には過去の出来事をまとめる用法もあります。こちらは推量用法よりも理解するのがやや難しいかもしれません。

未来の視点に抜けだし、過去の状況をひとまとめに総括するという用法。

過去の出来事の推量同様、未来の視点を借りてはいるものの、語っているのは過去のことで、未来のことではありません。

例文を見て感覚を掴みましょう。

(3) Toute sa carrière n'aura été qu'une longue suite de succès.
(総括すると)彼のキャリアは成功の連続でしかなかったということになる

次の文章は、映画『ラブ・セカンド・サイト (Mon inconnue)』の中の決め台詞。

(4) T’aimer aura été la plus belle chose qui me soit arrivée.
(僕のこれまでの人生を総括すると)君を愛することは、僕の人生に起こった最も美しいことだった

soit arrivée と接続法になっているのは、最上級(la plus belle chose)が使われているからです。aura étéの部分が前未来形。単純に複合過去(a été)で言わないのは、前未来のまとめ用法を使った方が、未来の視点に抜け出す分だけ総括する内容の確度が高まり台詞に重みが出るからです。

これらの例(3)-(4) が示す通り、前未来の過去のまとめ用法は伝記によく使われる表現です。

また、以下の例(5)-(7)のように、前未来形を使ったまとめ用法には多かれ少なかれ慣用表現化しているものもあります。

(5) On aura tout essayé 
やれるだけのことはやった

次の抜粋は、最近見た映画『あしたは最高のはじまり(Demain tout commence)』の中で医者が言っていたセリフ。

医者 -J’ai les résultats des examens, Samuel.(検査の結果が出たんだがね)
サミュエル -Oui..(はい)
医者 -Le traitement n’a pas fonctionné.(治療がうまくいかなかったようだ)
サミュエル -Combien de temps ?(後どのくらいの命ですか?)
医者 -Je ne sais pas. (わからない)Pas beaucoup(それほど長くはない).Je suis désolé.(すまないね) On aura tout essayé.(やれるだけのことはやったんだが)

(6) On aura tout vu.
すべてのものを見たことになる=信じがたい

次の抜粋は『魔女の宅急便』のフランス語版から。
森の中のカラスの巣にお届け物の人形を落としてしまい、それを取りに戻ろうとするキキ。しかし、カラスたちはキキを卵泥棒だと勘違いして怒っています。それに対して猫のジジがいいます。

Jiji : Une sorcière qui ne s’entend pas avec les corbeaux, on aura tout vu. Sache que ces volatiles étaient à votre service autrefois.
ジジ:魔女がカラスに嫌われるなんて、信じられないな。昔、カラスは魔女の召使だったのに。
[日本語オリジナル:あーあ 魔女も落ちぶれたものだよ。カラスは魔女の召使だったのにさ]
Kiki : Oui autrefois peut-être mais les temps changent.
キキ:昔はそうだったかもしれないけど、時代は変わるのよ。
[日本語オリジナル:それは大昔のことでしょ]

(7) Il aura fallu attendre... pour...
...のために...を待たなければいけなかった

Il aura fallu attendre six ans pour qu'on découvre enfin mon cancer
癌が発見されるまでに6年の歳月が必要だった

まとめ

以上、前未来の隠された用法(過去の出来事の推量用法と過去のまとめ用法)をご紹介しました。特に過去のまとめ用法は日本語にしにくい用法なので、感覚的に意味を理解するのが難しいかもしれません。たくさん例文に触れて感覚を磨いていきましょう。

それでは、また。

À bientôt !